Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「緑川さん、それはどうゆう意味でしょうか」


瑠華が真面目に聞いたが、俺はちょっと呆れていた。


「あのなぁ。君と柏木さんは顔の系統も違うし、雰囲気だって違うじゃん。大体君は柏木さんを……」


嫌ってなかった?と言う言葉を俺は飲み込んだ。瑠華を目の前にして言う言葉じゃないな。


どーゆう風の吹き回しだよ。


と言うより気味悪いて言った方が正しいのか…


だけど


「部長」


またも瑠華にピシャリと咎められて、俺はシュンと項垂れた。





「緑川さん、確かに部長のおっしゃる通りあなたと私は雰囲気が異なります。誰かの真似をするのではなく、あなた本来の美しさを見出すべきです。


あなたは部長を追いかけていた頃、あまり褒められはしませんでしたが、あなたらしくてそれが私には眩しかった。


あなたのひたむきにまっすぐに突き進む姿を、私はそれなりに称していたつもりです」





瑠華の―――



瑠華の言葉が俺の胸の中にストンと落ちる。


緑川に言った言葉は、俺自身に言われた言葉でもある。


以前―――…俺が経理部部長に叱られたことがある。言うまでもなく緑川のミスのせいだったわけだが。


「これだからジュニアは」


と一言経理部部長に言われて、言い様のない傷を負った。


ようは俺が持ちえていたそこそこのプライドを見る影もなくズタズタに引き裂かれたわけで、それでも―――


あのとき瑠華は





「啓人―――」





たった一言で、俺が“神流グループ会長のジュニア”と言う肩書きでなく、“外資物流管理部、部長”という肩書きでもない、


たった一人……俺と言う存在を認めてくれた。