Fahrenheit -華氏- Ⅱ



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裕二との話の決着がついたときは、もう夜中の1時を指し示していた。


くっそぅ。瑠華との貴重な時間を、こんなやつに裂かれて、俺何やってんだろ…


結局、裕二は今日だけは自分のマンションに帰りたくないとかほざいて、ソファに寝そべっている。


そんな裕二をほっといて、そぅっと寝室の扉を開けた。


瑠華はベッドに横たわり、布団を肩までかぶっていた。


もう寝てると思って、そろりとベッドにもぐりこむと、


「お話は終わりました?」と瑠華の控えめな声が聞こえてきた。


ぎくりとして体を強張らせるも、苦笑を漏らしながら何とか答える。


「…ごめん、起こしちゃった?」


「いいえ。寝てませんでした」


「煩かった?」


おずおずと聞くと、「ええ、そうですね」とストレートな返事が返って来て、俺は申し訳なさそうに手を合わせた。


「ごめんね?何か色々と」


極力声を押し殺して、リビングがある方を気にしながら謝ると、瑠華が僅かに苦笑を漏らした。


照明を落とした部屋で、はっきりとは分からなかったけれど、カーテンの隙間からのぞいた月明かりに照らされ、白い顔がぼんやりと浮かび上がっている。


「―――ごめん。さっきのは……」


言いかけたとき、


「Sh.(しー…)」と瑠華が声を潜めて、俺の唇に指を当てた。


瑠華はちょっとだけリビングの方を伺うと、


「Can he understand English?(麻野さんは英語を?)」とそっと聞いてきた。


瑠華の言葉が心地よく耳に響いて、仕事でさんざん聞いているのに、それはすごく新鮮に聞こえた。


俺も同じように様子を伺うと、「さぁ…俺よりはできないと思うケド?」と答えた。