瑠華は何も言わずに大人しく立ち上がり、寝室に入ると促されるままベッドに腰掛けた。
まるで人形のように力なく腰を降ろして、遠くの方へ視線を向けている。
「ごめん、瑠華。俺は裕二と話してくるから、先に寝てて」
感情のなくなった彼女の顔にそっとキスをすると、瑠華はちょっとまばたいて俺が立ち上がる様子をじっと見つめてきた。
それでも無言のまま小さく頷くと、瑠華はベッドにゆっくりと横たわった。
「ごめんな」
寝室を出るときちょっと振り返って、横たわった瑠華に声を掛けると、
「I'm sorry too.(私こそ、ごめんなさい)」と瑠華の小さな声が返ってきた。
俺はちょっとだけ微苦笑を浮かべて、そっと寝室の扉を閉めた。
「さて、と」
俺はソファに座って項垂れている裕二を、腕を組んで睨み下ろした。
「余計なこと言いやがって!」俺は声に怒りを含めた…それでも充分に声を押し殺して裕二の胸ぐらを掴んだ。
「悪いと思ってるよ…。つい…」
裕二が眉を寄せて俺の手を掴む。
「大体瑠華が居るときにストーカー騒ぎの問題を持ち出すてめぇが間違ってる!あの人が人一倍そうゆう男に厳しい人だって知ってンだろ!お前のトラブルでこっちがトラブルだ」
「…いや、わかってはいたけど…俺だって切羽詰まってるわけで…」
裕二は弱々しく呟いて、眉を下げた。
「……悪い…」もう一度深刻な顔で謝られて、俺もそれ以上どうこうする気力が失せた。
力を抜いて、裕二の胸ぐらから手を離すと、こいつはあっけなくソファに逆戻り。
まぁ、裕二も決して根が悪いヤツではない。
きっと感情が昂ぶって口についただけだろう。悪意があったわけじゃない。
それでも苛々と額を押さえながら、俺も裕二の向かい側に腰を降ろした。
俺ら二人って、ホントとことん女に弱いな―――……
情けない。



