Fahrenheit -華氏- Ⅱ



俺たち三人はリビングのソファで向き合って、瑠華が入れてくれた中国茶を飲みながら、裕二の話に耳を傾けた。


どーでもいいけど、このお茶は懇意にしている中国の企業がわざわざ送ってくれたものだ。


高級なんだからな。味わって飲めよ!


その中国茶を啜りながらも、俺は黙って裕二の話を聞いた。


なるほど、送ってくれた中国茶は高級なだけあって上品な香りと、しっとりとした苦味が旨かった。



―――俺は大体のことは知っているけど、瑠華は初耳だから裕二の話を目を開いて聞いている。


「ここ一週間毎日のように押し寄せてくるし、俺はノイローゼになりそうだ」なんて言って裕二は頭を抱えている。


俺の隣で瑠華が呆れたように吐息をつき、背もたれに背を預けた。


その雰囲気が……自分のことじゃないにしろ、ちょっと怖い。


大体にして瑠華はそうゆうヤツを生理的に受け付けない。


「啓人、俺どうしたらいいと思う?」なんて裕二は子犬のような目で訴えてくる。


「どうしたら…って言われても…」


「ちゃんと言った方がいいです。自分は付き合ってる人がいる、って」


瑠華の答えは予想しないまでもはっきりしている。


やっぱり…?俺もそれを言ったんだけどね。


「でもそれを信じるかな?信じたとしても綾子に何かしたら…。そうゆうのって普通の神経じゃないから、何しでかすかわかったもんじゃないし…」


と、裕二は顔を俯かせた。


瑠華の出してくれたお茶には手を出さず、今頃ではすっかり冷め切っているだろう。


その冷め切ったお茶にようやく手を伸ばした瑠華は、両手で湯のみを包み込み、目を細めて上品に啜りながら、


「綾子さんは知ってるのですか?」とズバリ聞いた。


お茶を飲む仕草とは反対に、ずいぶんと強烈な視線だ。


裕二はたじろいだようにちょっとだけ顔を上げて、情けない目を瑠華に向けるとゆっくりと首を横に振った。