「違うって何が……」


「今のあんたと付き合っても、結果は同じだったってこと。あんたはあたしに心を開いてくれない。


昔も、今も―――ずっと……


だけど柏木さんには心を許している。必死になって繋ぎとめようとしている。


この間空港であんたを見たとき、びっくりしたけどそれと同じぐらい羨ましかった。


あんたがあんな風に優しく笑いかけるところを見たのがはじめてだったから。





だからその笑顔を向けられる柏木さんが―――憎いのよ」






憎しみのこもった目は暗く澱んでいて、だけどその視線は俺に向けられてはいなかった。


俺を通り越して、その向こう側にいる瑠華に―――送られていた。


俺は目を開いて、真咲を見据えた。


「俺を恨むのはいい。だけど瑠華は関係ない。彼女を恨むのは筋違いだ」


俺の言葉に真咲はうっすらと笑った。


「確かにね。でもあんたは苦しむわよね」


「真咲……」


真咲は立ち上がろうとして腰を上げた。


「真……!」彼女の名前を呼ぼうとして手を上げたが、俺はぎくりとしてその動きを止めた。




真咲の向こう側に、壁にはめられた細いミラーに


赤ん坊の影が映っていた。


俺のすぐ後ろにある太い柱の影から小さな手をのぞかせている。


鏡に俺の姿が映っていて―――


小さな手は俺を手招きしていた。