「あんたにこんなこと言ってもしょうがないのに……ごめん。ちょっと疲れてたから」
真咲は力なく言って、額を押さえた。
「いや……」
そう答えるしかなかった。
俺は男だから、真咲たちの気持ちを100%理解することはできないし、理解しようと思ってもそれは上辺だけのフリになる気がした。
「あたし……柏木さんが羨ましいのかも…」
真咲はぽつりと漏らした。
何で?
そう答えるつもりで顔を上げると、真咲の力を失った視線が俺をまっすぐに捉えていた。
まっすぐに俺を見ているはずなのに、その視線は俺じゃないどこか遠くに向けられているようだった。
「彼女やり手だって聞いた。頭が良くて美人で、仕事がデキて会社からも認められて―――
そして、あんたに愛されてる」
初めて真咲の口からこんな弱音を吐き出されるのを聞いた。
いつだってこいつは勝気に、そして自信を持っていたから―――
でも瑠華がそんなに風に人に羨ましがられる人生だとは思わない。
彼女だって捨ててきたもの、諦めてきたものがある。
「俺は瑠華が何もかも持っているとは思わない。彼女はこの会社に入る前―――
色んなものを失った。何もかもなくしてニューヨークから日本へ来たんだ」
夢を見てたの。
瑠華が前に一度ぽつりと漏らしたことがある。
短い夢よ。
そう語った彼女の表情は―――悲しそうで、寂しそうで―――
壊れそうなほど儚かった。



