コーヒーが運ばれてきて、真咲がようやく顔を上げた。


「アザールの件ね、本当に私この企画に賭けてたの」


電話でも聞いた。


だけど電話のときのような覇気は微塵も感じられなかった。


気弱に振り絞る声が、諦めの色を滲ませている。


「でもあんたの力を借りなくても、結果的に東星紡には勝てなかった」


俺は無言でコーヒーを啜った。


「菅井は、“しょうがない。次を考えよう”なんて簡単に言ってたけど、私にとってそんな簡単なものじゃない。


この企画は半年前から温めていて、上も認めてくれた。成功すればしがない一営業から営業室主任に昇格できるチャンスだったの」


真咲は俺と目を合わそうとはせずに、淡々と喋った。


「女だから―――そんな簡単な理由で、私は男の営業より努力してるのに、周りの男社員はどんどん出世して、私はいつまで経っても新人扱い」


はぁ


と真咲は、はっきりと分かるため息を吐いた。


どの会社でもどの業界でもそうゆう男女の壁はまだまだある。


うちだって瑠華は役職が付いているけれど、それは親父の取り計らいがあったからで、


彼女が面接を受けて中途採用だったら、あの実力を埋もれさせながらただのOLとして、淡々と業務をこなしていただろう。


瑠華もまた―――





そうゆうことを分かっているうえで、



男だとか女だとかに酷くこだわるのだろうか。