Fahrenheit -華氏- Ⅱ



ほぼ予定通りの時間にアロマルージュに出向くと、真咲はこの前と同じテーブルで同じように紅茶を飲んでいた。


テーブルにファイルやら書類やらが並べてあって、真咲は頬杖を付きながら気のない様子でそのページをめくっている。


「……よぉ」


俺が声を掛けると、真咲はゆっくりと顔を上げた。


元気のないのは明らかだったが、笑顔を無理やり浮かべているようだ。


「早かったのね。前のあんたならここから15分は遅刻なのに」少し目を伏せ、昔を懐かしむように腕時計に視線を落としている。


斜め上から見る真咲の白い顔は、照明を落とした室内に青白く浮かんでいた。


単に元気がないだけじゃない。


前に会ったときより体調が悪そうだった。


それでも伏せた長い睫や、柔らかそうな髪。意思の強そうな唇は昔とちっとも変わらない。


昔と同じ―――綺麗だった。


「どうしたんだよ…っても、俺のせいか」俺は吐息交じりに向かいの席に腰掛けた。


ウェイトレスにホットコーヒーを頼んでいるとき、真咲はファイルをゆっくりと閉じた。


テーブルに出ていた書類も大判の封筒に仕舞い入れる。


ウェイトレスが去っていくのを見届けると、真咲は紅茶のカップに口を付けて、





「さっきは―――ごめん…」




と、小さく謝った。