「いえ、決してそのようなことはございません。アザールは東星紡とのダイレクトな取引きがあるようで、こちらが割り込んだ形になったので」


本音と建前。半分嘘で半分本当だ。


『だけどあっさり手を引いたじゃない。東星紡と真っ向から戦う気はないのね』


ふん、と真咲は鼻で笑った。


いくじなしね。と続けられ


額に血管が浮かび上がりそうなほど苛立った。その苛立ちを隠すため俺は額に手をやって淡々と答えた。


お前は一体何をしたいんだ。


過去のことを根に持ってるから、瑠華のことを持ち出して俺を脅す。それは分かる。でも何故仕事でも俺を苦しめるんだ。


「うちとしても東星紡さんは古くからのお付き合いのある業者さまです。弊社としましてもあちらの機嫌を損ねるわけにはいきませんので」


俺は結局本当のことを真咲に伝えた。


すると真咲は勝ち誇ったようにふんと笑った。


『あんたは昔からそう。すぐに厄介ごとを切り離す』


厄介ごと…


俺の受話器を握る手に力が篭った。


セントラル紡績の契約を俺は決して厄介ごとだとは思ってない。


だから誠意を持って菅井さんに謝りに行ったんだ。





「そう思われるのは心外です。私は私にできる精一杯のことをしたまでのことです。


確かにこちらのリサーチ不足などの落ち度はありますが、


私は御社に対して精一杯のフォローをさせていただいたつもりです」