Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「休日のスーパーでカートを引きながら二人で夕食の買い物してっと、何だか新婚さんみたいで♪」


「あ!そっか~そうゆうのもいいかも♪」


「だろ~??」俺は素でわくわくと楽しそうに緑川に笑いかけた。


だけど


『瑠華さん、瑠華ちゃん♪これ食いたい』なんて食材を手にすると、瑠華は俺の手の中にある商品をじとーっと見て、


『高い。返してきてください』とバッサリ。


『瑠華、あれ食いたい』なんて指さしても、


『必要ありません』


『瑠華。瑠華ちゃん!』


『返してきてください』


の繰り返し。俺、瑠華におねだりするの怖いよ。


それを緑川に話し聞かせると、緑川はまたも笑った。


「何それ~!♪もう結婚後の力関係できてるじゃないですかぁ。って言うかあの人プライベートでも変わらないんですね」


はは……そーですよねぇ。


「でも意外。柏木補佐ってもっと何も考えずにあれこれ買ってそうだけど」


「あ~あの人ねぇ…俺もそう思ったけど、しめるとこしめる人だよ。きっちりしてるって言うのかな。家計簿なんてつけてるし」


だから瑠華がマンションやLFAを買ったことろ、心音ちゃんに報告したところ


『財布の紐が固いあんたがよく買ったわよね~』なんて言われたらしい。


「俺は結構財布がゆるいから、管理してくれそうでいいかも♪」


「あ~そんな感じ」と緑川が答えて、俺たちは自然に笑い合っていた。


思えば、緑川と瑠華とのことを話せる日がくるなんて思いも寄らなかった。


って言うか、喋るつもりはなかったのに、案外スラスラ口から出て、そして俺自身その会話を楽しんでいた。


時が経つと―――状況は変わるんだな。


そんな穏やかな気持ちでメカジキを口に運んでいるときだった。