彼女の名前は“満羽”。
だけど俺は長い間名字の“真咲”と呼んでいた。
紹介してくれたツレがそう呼んでいたのもあるし、
大体真咲はサバサバしていて、こっちも女と居るよりも男友達といるようなノリで喋っていたから、“ミツバ”なんて言う女らしい名前があったことはいつも頭の隅に追いやられていた。
付き合ってもそれは変わらず俺は彼女をほとんど“真咲”と呼んでいた。
「どうして名字なのよ」
と、時々真咲はふくれっ面をしたけど、
「今更名前で呼べねぇよ」恥ずかしいし、なんて言って俺もそっぽを向いていたっけ。
ようは、それなりに照れてたってわけだ。
あの頃の俺は……青かったぜ…
―――と、まぁ回想はここまでにして…
俺はちょっと首を傾けると、覚めた目で真咲を見据えた。
彼女が振り返ったことで多少の余裕が出てきたのだ。
「どーゆうこと?」
「どうって?」
真咲は挑発的に見据え返してきて、うっすらと笑った。
俺たちの声は無機質な地下のエントランスホールに響いた。



