それは俺にとって願ってもないチャンスだった。
俺はこのまま真咲に奴隷のように扱われ、その後の人生を送らなければならないことを想像していたから。
真咲にとってその言葉は感情が昂ぶって、発作的についた言葉だったのだろう。
いや、あのときは一瞬でもそう思ったかもしれない。
だけど俺には関係なかった。
それから一週間後だ。
俺たちが正式に(?)別れたのは。
真咲の実家の近くのファミレスで、別れ話をしたのを覚えている。
フリードリンクのコーヒーは薄くて味をあまり感じなかった。
すっかりぬるくなったコーヒーを淹れかえることもせず、俺はそのまずいコーヒーを啜り、目の前の真咲を見た。
真咲は顔から表情を無くし、ただ呆然と俺を見つめている。
「お前が言い出したんだぜ?言った言葉に責任持てよ」俺も真咲と同じように無表情に彼女を見据えた。
一時間以上話して行き着いた言葉はコーヒーと同じ冷ややかに冷め切っていた。
真咲が無言で立ち上がり、ほとんど走り去るように店を出て行った。
その背中に向けて
「さよなら」と言ったが、
彼女に伝わったのか―――
ひらり…
目の前を一羽の蝶が横切っていった。
白い
モンシロチョウだ。
その鮮やかなまでの白い色が、俺と真咲の恋の果ての死装束に見えた―――



