「紫利さん、元気かなぁ」


なんて思わず呟く。


彼女の勤めていた銀座の高級クラブも、“マダム・バタフライ”という名だった。


『さよなら。あなたは……去り際までワルい男』


彼女の笑顔が鮮やかに甦る。


最後の最後までイイ女だった。


―――って、俺、気付いたら女のことばっかり!!


頭にはそれしかねぇのかよ!って突っ込みたくなる。




「どうしたんですか、さっきから怖い顔して。何か問題でもありました?」


佐々木が俺のデスクにコーヒー入りのマグカップを置いてくれた。


気を利かせてコーヒーを淹れてくれたみたいだ。


佐々木が女だったらなぁ…なんて思うほど、今女切れしてるのかも…


「サンキュ。悪りぃな」


そう言ってコーヒーを一飲み。


「あづっ!!」あまりの熱さに俺はマグカップを口から離した。


「俺は猫舌なんだよ。もっとぬるめに淹れてくれ。柏木さんだったら、いつも適温で淹れてくれるのに」


ブツブツ言って口を尖らすと、


「だったら自分で淹れてくださいよぉ」と佐々木も同じように唇を尖らせている。


ってか佐々木クン。俺はキミの上司だよね??何よ、そのひどい扱いは…


「なぁ佐々木」


佐々木は自分の席に座ろうとしていたが、俺はそれを引き止めた。


「何ですか?」と若干面倒くさそう。


「今って暦の上では秋だよな?なのに蝶ってありえなくね?」


俺はパソコンに止まっている青い羽をした蝶を指差した。


佐々木は訝しそうに目を細めて、その蝶を見ると



「それ、蛾ですよ」



と一言。