愛を教えて。

早く帰りたい。

帰りたい。

帰りたい。




うん。お礼だけ言ってすぐに帰ろう。

私は意を決して、となりにいる男のシャツの裾をクイッとひっぱった。



「………」



無反応。
気づかなかったのかと思い、今度は肩をツンツンをつつく。


だが、反応がない。
視線は雑誌に向けられたまま。


「あの…」と、話しかけて数秒待っても、返事はなかった。

これでは埒があかない。

帰りたいのに。



「名前」

俯いて考えていると、隣から声がした。

声の主に目をやると、雑誌から目を離し、私の顔を真剣な顔で見つめていた。


「名前を呼んで」


彼はわざと私を無視していたようだ。
無性に腹が立つ。


「名前じゃないと、返事しないからね」


帰りたいだけなのに、この男は、また面倒なことを言い出す。



「きりゅ「あっ、下の名前呼び捨てで」



私は半ば投げやりに、かれの名前を呼んだ。



「響」

すると彼は、柔らかくて眩しい笑顔をこちらに向けて、私でなければ、溶けて消えてしまいそうな甘い声で



「嬉しい」


と笑った。