明日、私学校休もうかな。
彼は、“しかえし”の存在を知らないのだろうか。
まぁ、男だからそういうことには疎いに決まっている。
明日のことを憂いでため息を一つ吐くと、彼はまた意味不明な言葉をつぶやいた。
「俺んち来る?」
「俺ん…ち…?」
「そ、俺の家」
そう言って桐生響は、マンションの中に入っていく。
鼻歌を歌いながら。
何の違和感も感じさせない彼の所作に、危うく騙されるところだった。
このマンションは、私が所有する私しか住人のいないはずのマンション。
手慣れた手つきで、オートロックを解除して、ずんずんと先に進む彼は、ここに居るのがさも当然かのようにしている。
この前が、“初めて”ではないのが分かった。
彼は私のマンションに住んでいる。きっと。
でも、どうして?
セキュリティもちゃんとしているし、警備会社と契約もしているので不備はないはず。
マンションのエントランスで悠然とエレベーターがくるのを待つ彼を不審気に見つめていると、彼は、私の視線に気づいたのか、こちらを見てニコッと笑って
「ちゃんと許可はとってあるよ」
と言った。

