「いいじゃない!目立ってやろうじゃないの!私、この人に暴力を振るわれたのよ!警察に突き出してやるんだから!」
桐生響を全力で指さしながら、彼女は怒る。
指を差された彼は、平然としていた。
糸井エリナの腕をつかんでいた私の手が緩む。
彼の表情はもとの、柔らかい気持ち悪いくらいに綺麗な笑顔に変わっていたから。
怒りわめいていた彼女も、その笑顔に圧倒されて、押し黙ってしまった。
一体彼はどういうつもりだろう。
考えても無駄だけれど、私は意外と学習能力がないらしい。
「警察呼びたいなら呼べばいいよ。君の好きにしたらいい」
笑顔のまま彼は続ける。
「でもさ、糸井なんていったっけ……まぁ君さ、あんま世の中舐めてっと痛い目みるからさ。そこんとこ覚えといて」
なんだろう。
この言い方に、この笑顔。
さっきの少し荒っぽい声と表情の時よりも、なぜか、怖く感じた。
それは私が受けるべき恐怖ではないから、私が感じる恐怖感は、少しだけれど。
糸井エリナからすれば、私の感じている数倍の恐怖感があるに違いない。
彼女は、地面に投げ出された鞄を抱きしめるように持つと、私と彼に目もくれずに走り去って行った。
桐生響を全力で指さしながら、彼女は怒る。
指を差された彼は、平然としていた。
糸井エリナの腕をつかんでいた私の手が緩む。
彼の表情はもとの、柔らかい気持ち悪いくらいに綺麗な笑顔に変わっていたから。
怒りわめいていた彼女も、その笑顔に圧倒されて、押し黙ってしまった。
一体彼はどういうつもりだろう。
考えても無駄だけれど、私は意外と学習能力がないらしい。
「警察呼びたいなら呼べばいいよ。君の好きにしたらいい」
笑顔のまま彼は続ける。
「でもさ、糸井なんていったっけ……まぁ君さ、あんま世の中舐めてっと痛い目みるからさ。そこんとこ覚えといて」
なんだろう。
この言い方に、この笑顔。
さっきの少し荒っぽい声と表情の時よりも、なぜか、怖く感じた。
それは私が受けるべき恐怖ではないから、私が感じる恐怖感は、少しだけれど。
糸井エリナからすれば、私の感じている数倍の恐怖感があるに違いない。
彼女は、地面に投げ出された鞄を抱きしめるように持つと、私と彼に目もくれずに走り去って行った。

