「いいえ。これからは気をつけて」

そう言って本棚の向こうへ消えていこうとする彼を慌てて引き止めた。

「待ってくださいっ」

彼はゆっくりと振り向く。

「あの、これ」
かばんの中から、おまんじゅうぐらいの丸くて硬い、金属で出来たそれを取り出し、おずおずと差し出すと、なおくんの切れ長の目が驚いたように見開かれた。

「ピルケース。私、間違ってもって帰っちゃったから」

「ありがとう、なくしたと思ってた」

彼は私からそれを受け取ると、本当にうれしそうに、笑った。
私にはまぶしすぎて、直視できないくらいだった。
耳まで瞬時にかぁっとなって、「それじゃぁ!」と、今度も足早に店からでようと思ったとき。

「待って!」

彼はセーラー服越しに私の腕をつかみ、力強く言った。

「ほんとに、ありがとう。もしよかったらお礼させて」

「えぇ?!そんな!」

私の頭はパニック寸前だ。だって手がふれている!目の前にいる!

「ケーキとかすき?」

お茶に誘われている!

私は大きくうなずいた。

「だいすきです!」