数分位待っただろうか……おばさんがあの笑顔と共に、冷やし中華を持ってやって来た。


「はい~お待ちどうさま、ごゆっくりどうぞ」


私は、おばさんに軽く会釈をすると、届けられた冷やし中華に目を移した。


「うん、冷やし中華だ」


なんとなく、そんな独り言をぽつりと呟いた。


そして私は、割り箸を手に取り、黙々とその冷やし中華を食べ始めた。


冷たい黄色みがかった麺。そして細切りにされた玉子とキュウリとチャーシュー。そして紅生姜。


私は、あまり食べ物に執着が無い。


この冷やし中華も、決して不味いとは思わなかった。



けれども……



無表情のまま冷やし中華を食べる私の様子を見て、カウンターの向こうからおばさんが話し掛けて来た。


「やっぱり冷やし中華は、もっと暑い夏に食べた方が美味しいかもしれないわねぇ」


冷やし中華は暑い夏の方が美味しいか……


だけど、そんな夏はもうやって来ないのだ。




「うん、これは冷やし中華だ」



私は、それを自分自身に言い聞かせるように、再び呟いた。