結局、その店に入った。


「いらっしゃいませぇ」


あまり混んでいないその店は、年配の夫婦が営んでいる店のようだった。


ほどなく、お盆に水とおしぼりを載せて、愛想の良さそうな顔でおばさんがこちらにやって来た。


「いらっしゃい。何になさいますか?」


何を注文しようかと壁にあるメニューに目を移すと、再びあの文字が私の目に入った。



『冷やし中華はじめました』



「もう、冷やし中華始めたんですね」


「うちは、GWが終わったらもう冷やし中華始めるんですよ。でも、ちょっと早いかもしれないねぇ」


そんな事を言って、私に向かってにっこりと微笑むおばさん。


「それじゃ、その冷やし中華を一つ下さい」


「はい~ちょっと待っててね」


なんとなく、その時の気分で冷やし中華を注文してしまった。