幹事長室を後にし、ふと腕時計に目をやると、時刻は正午を差していた。


そういえば、今日はまだ食事をしていなかった。あんな大声を出した後なので、よっぽど腹が空いていたらしい……私の腹の虫がグウと音を立てていた。


昼食はいつも外食である。私はあまり食べ物に執着が無いので、目に付いた店にふらりと入って食事を採る事が多い。


今日もそんな気分で建物の外に出ると、この近所にある食べ物屋をきょろきょろと物色し始めたのだ。



すると……



「あ……」



あんなやり取りをした直後だからだろう……
ある一軒の店先に立ててあったノボリに、思わず目が向いてしまった。




『冷やし中華はじめました』



「また、ずいぶんと早いな……まだ五月なのに」


しかし、今年の夏は涼しいのだ。


その事実を知っている私にしてみれば、冷やし中華を始めるのが五月だろうが八月だろうが、大した違いを感じられないのも確かだ。