《短編》夏の雪


「寝ます。あとはよろしく。おやすみなさい」


車まで戻ってきた瞬間、一方的にそう言い放った雪ちゃんは、誰の返事も聞かず、後部座席に乗り込んで、窮屈そうに横になった。

あたしと修司くんは顔を見合わせ、ふたりでため息を吐く。


相変わらず、こいつは、ほんとに。


でも、何を言っても無駄だし、それ以前にマジで雪ちゃんは寝る気らしく、修司くんは怒りを押し殺したような顔で運転席へ。

あたしは助手席に乗った。



すると、5分もしないうちに、後部座席から雪ちゃんの寝息が聞こえてきた。



「つーか、俺オール2日目だぜ?」


バックミラーを憎々しげに一瞥し、修司くんは「これどうよ?」とあたしを見た。

その目は死んだ魚みたいだった。


あたしまで寝たら、さすがに申し訳ない気がしてくる。



「あー、眠気覚ましにポンジュースでも飲みてぇ」


前言撤回。

運転してなきゃ殴ってたところだ。



「あたしあんたのこと、時々すっごい憎くなるわ」

「残念だな。それは俺にとって、最高の褒め言葉だ」


修司くんはケラケラと笑う。



「けなしてんだっつーの。その変な頭も含めてね」


街灯のひとつもないド田舎をひた走る車。

オーディオのボリュームは最小限で、ひどく静かで。


後部座席にいる雪ちゃんが起きる気配はない。



何だか急に虚しくなる。



「でもまぁ、俺わりと嫌いじゃないけどな、お前のこと」