《短編》夏の雪

「修ちゃん、今のは危険だから! ほんと事故するって!」


ひと呼吸置いて、雪ちゃんは胸を撫で下ろしながら言うが、



「やー、でも悪いのは雪ちゃんだよ」

「マジで? 夏美ちゃん、まさかの修ちゃんの味方?!」

「あたしは誰の味方でもないけど、今のは雪ちゃんが謝るべきだね」


言ってやると、修司くんはしたり顔で「当然だろ」と胸を張る。

雪ちゃんはぶつくさ言いながらも「めんご」と口を尖らせる。


あたしはそれを見て笑った。


それから、みんなでおにぎりせんべいを分け合った。

おにぎりせんべいを食べてベタベタした手で修司くんのドレッド頭を興味本位でいじっていたら、「汚ぇ!」と怒られた。




よくわかんないけど、あたし達はそれなりに仲良しだった。




2時間後、雪ちゃん曰く『秘湯』にどうにか辿り着いたが、そこは猿が出るどころか、人だらけだった。

テレビの効果ってすごい。


深夜3時なのに、っていうか、こんな山奥なのに、ありえないくらいに観光客がいて、あたし達は興ざめだった。


雪ちゃんは「バスタオルまで用意してきたのに」と肩を落としていたが、修司くんは「どうせこんなことだろうと思った」と顔色ひとつ変えずに言っていた。

仕方がないのであたしは足だけ浸かってみた。



すごく微妙な感じだった。



「ほれ、帰るぞ、雪」


滞在時間、約5分。

修司くんの言葉で、あたし達は帰宅の途につくこととなった。


雪ちゃんの期待値はものすごかったらしく、車を止めた場所で歩く道すがら、ずっと不貞腐れていた。


ちょっと可哀想だと思った。

修司くんはそんな雪ちゃんに、追い打ちを掛けるように「馬鹿」と繰り返していた。