《短編》夏の雪


一時間くらい走った気がする。



その間、雪ちゃんはオーディオのボリュームを目一杯に上げ、車内の音楽はガンガンだった。

ウーハーの重低音に揺らされる。


雪ちゃんセレクトらしいそれに、すっかりテンションも最高潮になったあたし。


窓を全開にし、夏の夜風を感じながら、音楽に掻き消されないように大声で喋る。

笑って、笑って、また笑った。



誰の目も気にせず、思ったまま、好き勝手に振る舞う雪ちゃんといると、気楽だった。




そして到着した場所は、山の上。




展望デッキがあり、街全体を見降ろせる。

夜景がすごくて、初めて来たあたしは興奮していた。



「すごーい! きれー!」

「でしょ? 俺もここ好き」


雪ちゃんは柵に肘をつき、身を乗り出した。



「落ちたら真っ逆さまだろうね。死んでも見つけてもらえないかも」


なのに、雪ちゃんは楽しそうだった。

身を乗り出したまま、手をぶらぶらさせている。



「ちょっと、ちょっと! そしたらあたし、どうやって帰んのよ!」

「えー? そっちの心配?!」

「当たり前でしょ」

「ひでぇなぁ」


雪ちゃんはケラケラと笑う。



こういう人なのだろうと思った。

風のように、雲のように、何者にも縛られることなく生きていたい人。


きっと雪ちゃんは“自由”を奪われたら生きてはいけない気がしたから。