しかし、今夜は違った。

『彼女は……きっと必ず来る』と。

もったいない気持ちもあったんだが、

おもいきって、59800円のブランド時計を腕から外し、

右手のスナップを利かして後ろへ放り投げた。


今、振り返ったら負けだ、と最早、正気の沙汰とは思えない行動だ。

その直後、薄っすらと遠くから走ってくる女性が見えた。

俺は目を擦った。

「すみません! 遅くなっちゃって!」

目の前にいるのは、走って髪を乱しながらも、

あの時、一目惚れしたとても可愛いあの子だった。