『箒星の組み紐』

クリスマスケーキなどの洋菓子の広告チラシを配っている女の子。その笑顔が素敵な女の子に俺は釘付けになっていた。

ほんの数分前までは、頭の中がデフレスパイラルのように負の言葉の連鎖で満ち溢れていた。しかし、今は、言葉が、思考が、全くといっていいほど定まらない状態である。

単なる一目惚れといったら、そうであろう。だけど、いつもの一目惚れではないことは、はっきりしている。それは一体、なんであるのか? そんな陳腐な質問に答えても仕方がないと思った。だからこそ、勇気を振り絞って『今』一歩を踏み出したのである。

「一枚、いただけますか?」

「はい」

西村は唾を飲み込んだ。

「このお店はここから近いですか?」

「はい、こちらの地図に書いてあります。右手の……」

「はい、分かりました」

西村は、ぎこちない笑顔を作りながら、また、唾を飲み込みながら、

「お仕事中、大変失礼かと思いますが……あの……もし、よか……」

西村はその後の言葉が中々出てこない。