「恋愛に限らず、誰かを特別に思うことは馬鹿げたことじゃねぇよ」
「会長を馬鹿にしたつもりは無いですけど」
「そうは言っても、お前は俺のキモチを否定した。恋愛なんてするだけ無駄。別にそう思うのは構わねぇさ。だけど、ちょっとでいいから考え方変えてみろよ。誰かを思って一喜一憂する、それは辛いことかも知れない。端から見たら馬鹿げてるかも知れない。でも、その瞬間、誰かを特別に思ってるその時、必ず世界が違って見える。何気無い毎日が輝いて見えるんだ。例え今みたいにフラれて気分が沈んでいても、だ」
口を挟む隙なんて無かった。
特別に素晴らしい言葉を言われた訳でもなければ、感銘を受ける様な言葉でもない。
それなのに。
真っ直ぐ僕を見詰める視線に気圧された様な気がして。
僕は暫く、会長を見上げたままだった。
「なんか偉そうに言っちまったけど、これが俺の持論てヤツ」
きっと、会長が、柄にもなく真面目に言葉を紡いだからだろう。
「だからさ、下らない、って決め付けないで、馬鹿みたいに足掻いてみるのも結構イイもんだぜ」
「ロマンチストなんですね」
「男はみんなそうだろ?」
ニッとはにかむような笑みで、会長が僕の肩を叩く。
そのまま、手を肩に乗せたまま。
彼はすっと笑みを消して、何かを考えるみたいに視線を泳がせ始めた。


