「──先輩とメアド交換したってホント!?」

「羨ましいでしょ」

「いいなぁ……」


 昼休みの喧騒に紛れて、近くに居る女子達の会話が聞こえてきた。


「携帯鳴る度にすっごいドキドキしちゃってぇ──」


 小説のページを捲る手を止めると、窓から流れ込む風が勝手に物語を進めていってしまう。


「──ねぇ、先輩にコクっちゃいなよ」

「無理無理! 絶対無理だって!!」

「なんで? アドレス交換してくれたんでしょ?」

「部活の先輩達に紛れて交換したんだもん……あたしだけじゃないんだよ」

「でも、返信してくれるんでしょ?」

「先輩優しいから他の人にも返信してると思う──」


 誰かを好きになる感覚、僕にはよく分からない。

 別に、特別に誰かを好きじゃなくても生きていける。


 誰かを思ってドキドキすることも。
 誰かに逢いたいと思うことも。


 僕には必要ない。

 他人に縛られるなんて、考えるだけで嫌になる。

 恋愛はフィクションの世界だけで十分だよ。

 僕は、いつまでも僕のままでいたい。