「待って!」


去ろうとしたあたしに香取さんが声をかけてくる。


声なんてかけて欲しくないんだけど………。


そのまま、聞こえなかったフリをして歩こうかな…なんて思ったけど、香取さんは走ってきてあたしの腕を掴む。


そうなると、聞こえなかったフリをすることも逃げることもできない。


「な、なに?」


作り笑いをしながら、答えるあたし。


ああ……、今すぐ逃げたい。


笑顔を向けながらもあたしの頭の中にはこの場から逃げることしかなかった。


それなのに、香取さんはとんでもないことを口にした。


「ねえ。どうせ、同じ学校に行くんだし、一緒に行かない?」


んなっ!


思わず、口がカパッと開いてしまった。



わざと視線に入れないようにしていた隼人の姿を思わず見てしまうぐらい気が動転してしまっていた。


隼人も予想外だったのか、気まずそうな顔であたしを見てくる。


そりゃ、そうだよね。


隼人はあたしの気持ちを知らないとはいえ、あたしに、香取さんとはつきあわない的なことを言っておきながら、付き合ってるんだもん。


あたしがとやかく言うことではないけど、『言ってることとやってこと違うじゃん』的な今の状態。


気まずいのはあきらかだよね。


「いいよ。邪魔するの悪いし。香取さんだって、わざわざ隼人と登校するために、ここまで来たのに。そんな気を使わないで」


口ではそんなことを言いながらも、内心はあたしのことはほっておいて欲しい。


このまま、構わずにいてくれたらいいのに、香取さんは隼人と付き合っている余裕からか、諦めてくれない。