「美優? ………えっ? 香取?」


久しぶりに聞く声に振り返ることもできなかったあたしの前で、香取さんが満面の笑みを浮かべ、走っていく。


「南条くん!」


「えっ? どうして、ここに?」


振り返らずにいるあたしの背中に2人の声が聞こえてくる。


「一緒に学校に行こうと思って、迎えに来たの!」


うれしそうに話す香取さんの声が、うるさいぐらいにあたしの耳にこびりつく。


聞きたくなんてないと思う気持ちとは反比例して耳はそれほど大きくない2人の声を拾ってしまう。


聞きたくない。


聞きたくない。


耳を塞ぎたいけど、そんなことを今すれば、あたしが聞きたくないのだと2人にばれてしまう。


あたしは2人の姿が目に入らない角度まで顔を振り返りながら、ヘラッと笑う。


自分がきちんと笑顔を作れているのかはわからないけど、とにかくあたしはがんばって笑顔を作った。


「それじゃ、あたしは………」


2人が何かを言うまえにあたしはその場を去ることにした。


走るわけにはいかないから、とにかく自分の出せる範囲の力で早歩きをして。


だけど―――――