「後で片付けようと思ってたんだけど、美優が帰って来てたならちょうどよかったわ。悪いけど、リビング片付けておいて。お母さん、今追い込み入ってるのよ。締め切り、本当は今日なんだけどさ………」


無責任な言葉を連発する母にあたしは額を押さえる。


「まさか、今日金井さんが来てたのって、打ち合わせがメインじゃなくて締め切り」


「あったり~! 金井ちゃんに無理言って、一日だけ猶予もらっちゃった」


あたしの言葉を遮り、あっけらかんと言い放つ。


そんな、呑気な話じゃないでしょ!


「金井さん、お母さんの原稿待ちってこと?」


「そう。まだ仕事が他にもあるからって1回、社のほうには帰ったけど、また来るって。たぶん、7時ぐらいかな………」


机の上に置いてあるデジタル式の時計はもうすでに5時15分を表示している。


「ちょっ、もう2時間ないじゃない! どこまで書けてるのよ。大体終わってるの?」


「それが………実は、全く………」


「えぇぇぇ~~~!!? どうするのよ」


「どうしよう………。全然、話が浮かばないのよね」


「でも、打ち合わせで内容は詰めてるんでしょ?」


「そこよっ! そもそもこの話は間違いだったのかな…。私に純なラブストーリーなんて無理なのよ。構成を何度見ても、考えても文章にこれっぽっちも浮かばない」


お母さんは力説するけど、そんなことを言っている時間さえ、今は勿体無い。


第一、今日が締め切りだって言うのに、そんな話してる段階でいいわけ?


それって、全く書いてないっていうのと一緒じゃない。


とても、そんなことは口に出しては聞けなかった。


その通りの言葉が返ってきそうで………。