もしかしたら、まだあいつの心の中に残っているかもしれない。





悪い子になったら、自分の思いを素直に伝えたら、周りの人に嫌われるんじゃないかという思いが。





「なんか…人の心って複雑だよな。」






再びコーヒーに手を伸ばしながらそう呟く。






すると、進藤先生がいたずらっぽく笑いながら俺を見た。






「そうですか?人の心なんて意外に単純なものですよ。それに、片瀬さんが素直じゃないのも、ただ単に甲田先生に言いたくないだけかもしれないですよ。」







「え…。」






俺が驚いた顔をみせると、進藤先生の顔が更に変化し、ニヤっと目を細めた。






そしてコーヒーを一口飲んでから、俺を見つめる。






「はははっ、冗談ですよ。何そんなに驚いてるんですか。」






「なっ、お前……。」






開いた口が塞がらないとはこのことか?






今、俺めちゃくちゃ驚いたんだけど!!






でもそんな俺とは対象的に、進藤先生は落ちついた様子で時計をみる。






「あ、甲田先生そろそろ部活の時間じゃないですか?」






「え?あ、あぁ…。」







時計を見ると、針が9時に差しかかりそうなところだった。






「ほらほら怒ってる場合じゃないですよ。早く行って片瀬さんと話さなきゃなんですからっ!!あー、甲田先生大変ですね。仕事に部活に恋愛だなんて。まるで高校時代をもう一度送っている感じですね…あはははっ。」







「…進藤先生、今度また俺とバスケして遊びましょうか。」







俺の言葉を聞いた進藤先生は、この場から早く逃げた方がいいと判断したのか、コーヒーを急いで飲み干してドアノブに手をかけた。