月明りに後ろから照らされる人影は、声を聞かなくとも、輪郭だけで誰だか分かった。



「だから…嫌だと言ったのに」


人影はぽつりと呟き、動けないでいる僕の額をそっと撫でた。


ぱたぱたと、僕の頬に涙が墜ちる。

儀式で、僕の持てる力全てを、使い果たしたのだろうか。

涙を拭ってやりたいけど、体が重くて身動きひとつ取れない。


それでも何とか、アリスを安心させたくて、僕は笑ってみせたけれど

あまりうまく笑えなくて、口角を少し上げただけだった。