”コンコン”

病室のドアがノックされ、カオリは、

急いで、涙を拭いた。

久しぶりの亮との再会に、カオリは、

大事な事を、忘れていた。

優美に、亜美に連絡するように、

頼んだのだ。

ノックの音を聞き、直感で、

カオリは、亜美だと思った。


ドアが開き、亜美と、亮との子供、3歳位の女の子瑠璃が、

入ってきた。亜美は、すごく、しらっとした

顔をしていた。

亜美は、カオリに軽く会釈をし、瑠璃と

手を繋いだまま、亮の方に近づいた。

カオリは、息を呑むように、その光景

を、見つめていた。

亮は、眠っている。

 その時、亮の目から、

涙が、流れた…。

眠っているのに……。


 「?泣いてる…ママ、この人、泣いてるよ…。

 かわいそう……。」

 
 その小さな子供の瑠璃が、そう言いながら、

亮の涙を、自分の小さな手で、拭きはじめた。

 「……うん…。」

 亜美も、自分の子供のその姿を見て、声を詰まらせ、

返事をしている。


 カオリは、その小さな女の子の姿に…

どうしようもなく…泣けそうになった……。
 
このままでは、自分の事を嫌いになる…。

私は、何をしてるんだろう……。

 カオリは、突然、イスから立ち上がった。


涙を、止めなければ、いけなかった。


 「亜美さん、後の事…宜しくお願いします…。」

そう言って、カオリは、頭を下げた。

その時、一瞬だけ、亜美の無表情な顔が、変わった。

亜美は、カオリのその言葉に、ただ、頷いた。

カオリは、病室を、出た。後ろの方で、

 「お姉ちゃん、バイバイ。」

小さな女の子の声が、聞こえていた。カオリの目から、

こらえていた涙が、溢れた……。

”終わったんだ”と、思った…。