澄み渡った空の下。

大きく息を吸い込む。

聞こえてくる、母国語でない言葉。

その雑踏の中で、懐かしい声。

「美波、こっちだよ」

差し出してくれた手をつかむ。





朝からお兄ちゃんに怒鳴られたあの日。

お父さんは手術することを決めた。

なんだ、案外あっさり決めちゃうんだ…なんて、腰が抜けた。

やっぱり、親子だなぁ。

お父さんも、お兄ちゃんも、意地っ張りなところがソックリ。

手術は無事に成功。

後遺症もなく、1カ月ほどで退院。

退院の日、お父さんのキツーイ一言。

「秀介に病院を渡すくらいなら、自力で治ってやるよ」

「あーそうかよ!なら自力で治ればよかったのによ!」

あぁ…もう…

ホント素直じゃないんだから。

お母さんと顔を見合わせて、ちょっと苦笑いした。

心の底では、お兄ちゃんが病院を継ぐって言ったこと、一番喜んでるくせにね?







「何笑ってんの?」

「嬉しいなーって、思って」

「ん?」

「私の大好きな人たちが、みんな幸せになってくれて」

「ははっ…美波らしいな」

悠ちゃんの運転で、これから住む新しい家に向かう。

郊外の小さい一軒家。

悠ちゃんの務めてるメディカルセンターまでは、車で15分のところ。

都会でも、田舎でもない。

ここで新しい生活が始まる。