霊感少年とメリーさん




少し怒りが収まったボスは、机の引き出しから10年前にもらった特殊能力を持つ人間に関する情報と書かれた報告書を見つけ、眉間に皺を寄せる。

『今回、生まれてくる特殊能力を持つ人間が全員で2人。これで、揃った訳か……』

毎回、報告書を受けているが、書かれているのは人数だけで、どんな力を持っているのか、性別、年齢、名前、住所など詳細は不明。その為、G.S.Sは特殊能力を持つ人間を探すのに苦労をしていた。

『ですが、今回はあまりにも可笑し過ぎます。いつもなら、5人から10人ぐらい生まれてきます。それに、普通なら力の強い者や弱い者も居ます。なのに、今回は2人とも強い力を持っています。特に、織原くんはズバ抜けています。絶対に何か裏があります』

『俺もそう考えたが、今回は特殊能力と相性のいい魂が居なかったのと、たまたま相性の良かった特殊能力が強い力だったのかもしれない』

『確かに、その仮説も否定はできません……。ですが、何か違和感を感じます』

有奈は、報告書をもらった時から違和感を感じていた。人数も過去最低で、しかも両者とも強い特殊能力を持った人間。これは、絶対に裏があると睨んでいた。

『そうだな。だが、それよりも織原の存在に違和感を感じる』

ボスは、鋭い目つきで深く考える。

それにしても()せない。普通なら、生まれて12歳を過ぎてから特殊能力が目覚めるはずだ。なのに織原の場合、メリーと遭遇して特殊能力が目覚めた。

何故、そのタイミングで目覚めた?何か意味があるのか?おまけに、容姿も特殊能力もアイツと同じ。そして、何故この時期に生まれたのか。何もかもタイミングが良すぎる。

どんどんと、深まる謎に頭を抱えるボス。

『まさか神様は、あの人の魂をコピーしたんじゃないでしょうか?!』

有奈は、ある考えにたどり着き思わず声を上げてしまった。あの人をコピーしたのなら、全ての辻褄(つじつま)が合う。しかし、それが本当ならなんて残酷な事をするのだろうか。有奈は、怒りで体が震えた。

『それは無いな。コピーをしても、結局は偽物だ。門をくぐる途中で消失する。それに、あのクソ神の事だ。何らかの方法を使って、織原を生まれさせた。だから、織原がアイツじゃないとは言い切れない。今、俺達が分かっているのは、織原が現世(ここ)に居るという事だけだ』

ボス達にとって、その真実はあまりにも歯がゆい。何一つ、核心を突く真実が見えてこない。そして、その歯がゆさは自分達が無力だと思い知らされた。

『一体、神様は何をしたいんでしょうか……』

有奈の言葉に、引っかかりを感じてボスは考え込む。そして、ある考えに辿り着き、「ははは!」と片手で頭を抑えながら、自分を侮辱するように呆れて笑う。

その様子を見た有奈は、戸惑いながらもボスを見守り続けた。ひとしきり笑い終えたボスは、静かに口を開く。

『有奈……。どうやら、俺たちはクソ神の暇潰し(ゲーム)|に利用されたようだ。あの下衆野郎、織原を使って何らかのゲームをしてるんだーーーッ!』

ボスは、怒りを込めた拳でドン!と机に叩きつけた。ようやく、たどり着いた答えに怒りを抑えることが出来ない。

自分達が、陽一に疑問を持つよう仕組まれていた。全ては、神様の思惑通りになっていた。気付けなかった罠。知るには遅すぎた真実。それらは、2人に重くのしかかる。

悔しくて唇を噛み締めるが、自分がやらなければならない事を改めて再確認する。

『だが、そんな事をしようとも、G.S.S(ここ)幽霊(あいつら)も織原もこの現世も俺が全力で護る!』
『私も、全力で守ります』

藍色の瞳に、強い意志が宿っていた。揺るがない想いを胸に、誓いを立てるボス。その姿を見て、有奈も力強く頷く。

『とりあえず、織原の護衛はメリーに任せる。監視は、俺等が極秘にするぞ』
『分かりました』

今、自分達が出来ることは精一杯にやるしかない。有奈は、神様への怒りを抑えつつ、目の前のことに集中することにした。

すると、ボスはメリーから受けた陽一に関する調査報告書を片手で持ち椅子から立ち上がる。

『ただ、監視を行うだけではなく、織原の正体も突き止める。調査の結果、織原の正体がクソ神の使者で、こちらに危害を加える時は、俺が消す。例え、メリーを傷つける結果になったとしてもだ--!』

怒りの言葉と共に、調査結果の書類を部屋中にばらまく。有奈は、ボスの言葉を聞いて本気だと知り、メリーを思うと胸が苦しくなった。

果たせなかったアイツとの約束を守るためにも、俺はどんな手段も使ってやる。

固い決意をしたボスは、くるっと窓際の方に向き、憎悪が秘められた瞳で外を見つめる。

『本当、アンタの悪趣味には反吐が出るぜ。クソ神様よ……!』

何処までも、澄み渡る青空を見上げて睨んだ。