霊感少年とメリーさん




メリーの小さな背中を見送ったボス達は、複雑な表情で話し始める。


『有奈、織原を見ただろ?“アイツ”にそっくりだったな……。だが、性格は違ったな。まさか、アイツの姿でタンカを切られるとは思わなかった』


ハハハっと、少し呑気に笑う。だが、ずぐに眉間に皺を寄せて険しい表情をする。


『はい。しかし、どう考えても織原君は』


有奈には、ある確信があり険しい表情で口を紡ぐ。


『“生まれ変わりではないな”』


ボスも有奈も分かっていたのだ。例え、特殊能力と容姿がそっくりでも、生まれ変わりはあり得ない。


なぜなら、前世の者は生まれ変わる際に、別の人間に生まれ変わらないといけない。特殊能力を持っていようがいまいが、生まれ変わ際は前世とは全く別の人間になるよう仕組まれている。


生まれ変わる際、上界に居る神様と側近がその魂が現世で生まれても良いのか最終審査を行う。最終審査に通った魂は、母体へと繋がる門(ゲート)をくぐる。そして、現世で無事に母体に入り、生まれることで生まれ変わりは成功する。


もちろん、前世の記憶が残らないように側近が消している。中には、前世の記憶が少しだけ残ったまま生まれ変わった人間も居る。それは、奇跡しか言いようがない。


『この事を知っているのは、上界の奴らと神様と俺達ぐらいだからな』


メリーが、そう思い込んでも可笑しくはない。生まれ変わりの原理自体極秘になっている。現世で居る者で、この事実を知っているのはボスと有奈だけ。


だからこそ、陽一は生まれ変わりではないと断言できる。しかし陽一の場合、前世とはさほど変わらない状態で生まれている。あり得ない事態が起こり、ボス達は頭を抱え込んだ。


『そもそも、織原 陽一は、存在してはいけない。理論上あり得ない』


ボスの問いに、有奈は静かに頷く。


『容姿が似ているのも気になるが、何よりも織原が“アイツ”と同じ無効にする力を持っているのが問題だな……』


『私も思いました。それぞれ花は一種類ずつなので同じ特殊能力は存在しませんし、一度使った特殊能力は消えるはずです』


有奈の言葉を聞き、ボスはそうだなと強く頷く。


もともと特殊能力は、異変で上界にある神秘の泉に咲いた花の中で生まれた。それを利用するにも、ある条件が必要となった。強い霊感を持ち、かつ特殊能力と相性のいい魂でなければならない。


それが、特殊能力を持つ人間の誕生の経緯。その為、どんな特殊能力を授かったのかは本人さえも知らないのだ。


しかし、一度与えた力は二度も使えない。なぜなら、特殊能力を持つ人間の魂と力は融合しているため切り離す事が出来ない。


唯一、切り離す事が出来るのは神様のみ。しかし、切り離されるのは、特殊能力を持つ人間が死後を迎えた時と、年を老い戦えなくなった時のみ。


彼等から切り離された力は、役目を終えて消滅する。そして、前世で特殊能力を持つ人間は、自動的に普通の人間として生まれ変わる。


それらが、神様と側近から教わった決まり。だが、どう考えても、その決まりと陽一の存在が矛盾している。


『かと言って、神様が禁忌(タブー)を犯した訳でもない。もしタブーを犯したなら、側近共がクソ神を地獄に送るだろう。

それに、あの堅物の側近共がクソ神と手を組んでいるとは思えんしな。現段階で、クソ神は禁忌を犯してないということになるな』


『そうですね、もし禁忌を犯していたら、第4代目神様になってますね』


『はっ!一層の事、交代してくれたらいいのにな。その方が精々する』


ボスは、嫌味を含んだ声で神様を侮辱する。その表情は、心の底から嫌っているのだと他者から見ても分かる程。


『よくもまぁ、こんな事が出来るな……。だから俺は、クソ神が嫌いなんだよ。特殊能力を持つ人間を、“悪霊を退治させる為の囮”として生ませやがってッ!側近共もだ。クソ神の提案なんかに乗りやがって!』


『そうですね。私も、反対です。三代目もそうですが、側近達にも呆れました』


ボスも有奈も、腹を立てて暴言を吐き続ける。2人は、特殊能力を持つ人間を生ませる事に反対をしていた。


彼らの存在で、普通の人間が救われているのも知っている。だがその分、彼らが危険を負うリスクが高い。力を求める悪霊にとっては、いい餌なのだ。その為、特殊能力を持つ人間は強制的にG.S.Sへと入らされる。



本当は、力を消して普通の人間として生きて欲しい。だが、神様が見張っている以上、こちらは何も出来ない歯がゆさを何度も味わってきた。