放課後。陽一は部活を休み、自転車置場でメリーと待ち合わせをしていた。

校舎の1階の窓から部活に向かう生徒の姿を見つけ、羨ましい気持ちになる。このまま考えていると、妬ましい思いに駆られないように、なんとか心を落ち着かせようとする。

部活に向かう生徒とすれ違いに、段ボールを上に重ねて2つ書類運んでいるメガネをかけた細身の先生を見つける。だが次の瞬間、段ボールを抱えたまま転び、陽一の視界から消えた。

陽一は、慌てて廊下に向かう。そこには、段ボールの箱から、プリント用紙や先生の所有物であろう筆箱やファイルや理科の教科書が飛び出し、床に散らばっていた。先生は、慌てて拾っていた。

「松下先生、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。織原くん」
「先生、俺のこと知ってたんですね。学年が違うから、知らないと思ってました」

松下先生は、一緒に手伝ってくれる陽一にお礼を言う。だが、陽一は一年生担任の松下先生が陽一の事を知ってる事に驚く。今回、初めて松下先生と会話を交わしたからだ。

「織原くんは、剣道が強くて大会の個人成績も優秀で、全校集会でよく表彰されてるよね。この学校で君のことを知らない先生は居ないよ」
「あ、ありがとうございます」

穏やかな口調で、さらっと陽一の事を誉める松下先生。陽一は、自分がそんな有名になっているという自覚がなかった為、照れ臭く感じる。

ほとんど書類が拾い終わり、残り1枚落ちている書類を拾うとした時、松下先生も拾おうとして互いの手が触れた。

「いってーーー!」

その瞬間、触れた箇所からバチッと静電気のような痛みを感じる。

「だ、大丈夫かい?!」
「は、はい。もう大丈夫です。何か静電気みたいな感じになって」

まだ少し痛みが残っているが、心配をして不安な表情をしている松下先生を気遣い、陽一は痛みを隠す。

「明日の理科の実験で、静電気の実験確認をしてから、僕の方に静電気が残ってたんだと思う。ごめんね」
「大丈夫です。俺も大袈裟に言ってすみませんでした。俺、そろそろ帰ります。さようなら」

申し訳なく謝る松下先生に、陽一は慌ててフォローをする。このままでは、互いに気まずくなると感じ、陽一は慌ててその場を去った。

「手がかりが分かった!?」

メリーと一緒に学校から帰宅した陽一は、自分の部屋でメリーから生け贄こっくりさんの新情報を聞いていた。

『重傷者が、持っていた携帯からある事が分かったの』

メリーは陽一に写真を見せてもらう。写真には、あいうえお順に書かれた紙が映っており、文字の上には、小さく鳥居が書かれていた。

『彼女は、都市伝説や心霊現象に興味があって怪奇関係のサイトをよく見ていた。携帯の最後の履歴から、事件の前日にこっくりさんを呼び出す時に使う紙をサイトからダウンロードしてた形跡が残ってたわ』
「じゃあ、そのサイトを作った奴が犯人なのか!」
『そのサイトはもう消されているけど、サイトの創立者が、被害にあった生徒たちの担任の先生。しかも、その先生は事件が起きる2日前から行方不明。警察も担任を疑っているわ』
「行方不明を眩まして、だけど前日までサイトがあったのなら、その先生が犯人の可能性があるな」
『えぇ。ボスも悪霊の可能性は低いって言っていたわ』

陽一は、メリーの話を聞いて安堵する。犯人の目処がたち、これで安心して早くても明日から部活に打ち込めると期待に胸を踊らせるが、、、。

『だけど、念のために今週は休んでほしの』
「……分かった。安全が確認されるまでは、大人しくしてるから安心しろ」

メリーの言葉で現実に引き戻され、陽一は自分の欲を隠す為に笑顔で応えた。あわよくば明日から部活に取り組みたいという欲を出してしまった。その欲が周りを危険に晒すことを知っている。頭で分かってるはずなのにと葛藤する。陽一は、皆を守る為にぐっと欲を抑え、メリーに悟られぬよう笑顔で隠す。

「その代わり、来週からは俺が剣道出来るようにトコトン付き合ってもらうからな……?!」

突然、メリーが陽一の手を優しく握り、陽一は驚いて目を見開く。メリーは、今にも泣き出しそうな表情で陽一を見つめる。

『ごめんなさい、我慢ばかりさせて』

メリーは、無理に明るく振る舞っている陽一の姿に、胸が締め付けられていた。陽一の大切な生活を壊してしまう度、罪悪感に駆られる。陽一は、メリーから伝わってくる申し訳ない気持ちを受け止め、メリーの手を優しく握り返す。

「お前がいつも俺の為に色々してくれてるの知ってるから、俺だって協力したいんだ。だから、そんな顔するなよ」

メリーの後ろめたい思いを優しく包み込むように微笑む陽一。そんな笑顔に、メリーは陽一の思いを裏切らない為にも、絶対に守り抜くと胸に強く誓い、陽一の手を握り返した-----。