「もやもやするな…。結局、俺たちは何も出来ないわけか」


何も出来ない事を痛感して、陽一は座ってたベッドへと雪崩れ込む。他人の為に、考えている陽一を優しい過ぎるとメリーは感じた。


「そんな事はないわ。実は、陽一にも出来ることがあるから、協力してほしいの」


「本当か?!何をすればいいんだ?」


メリーの言葉に直ぐ様反応をして、体を起こす。最初の頃と比べて、素直に協力に応じようとする陽一を嬉しく感じ、思わず微笑む。


「陽一の周りで、怪奇現象をしようとしている人が居たら、すぐに私に連絡してほしいの。生け贄こっくりさんの正体が分からない以上、今の段階で怪奇現象を引き起こすのは危険だわ」


「確かに。もし悪霊が、怪奇現象をターゲットにして襲ってたら、そいつらが狙われるしな。分かった!周りの奴らのことは気に掛けておくから、俺に任せろ」


陽一は、ニカッと笑って頼もしく返事をする。そして、陽一なりに対策も思いつき、明日学校で実行しようと考えてた。


「それと、もう1つ。私から個人的にお願いがあるんだけど」


メリーは口元をゴニョゴニョとさせて、言い出しくなり、思わずうつ向いてしまう。陽一は、メリーの様子に気付かず、次の言葉を待ち続ける。このままではいけないと感じたメリーは決心をする。


「この事件が解決するまで、夕方から始まる部活を休んでほしい。まだ、悪霊の仕業とは断定は出来ないけど、念のために休んでほしいの。もちろん、授業が終わったら、すぐに迎えに行くから」


メリーは、陽一に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。いつもなら、部活帰りは霊結石を自転車の籠に入れて帰る陽一をメリーが護衛するのが日課。


しかし今回は、いつもの悪霊とは動向が違い、予測できない。陽一の安全を最善に考えた結果なのだ。剣道が好きな陽一にとっては、この選択はあまりにも残酷過ぎた。


「分かった。暫く部活は休む」


陽一は断る素振りもなく、メリーのお願いを快く受け入れる。


「本当にいいの?だって、来月大会があるのに」


メリーもそれがあった為、言い出しにくかったのだ。大切な大会に向けて、練習に励む大事な時期。今まで部活を休まず、遅くまで練習に取り組んでいた姿を見ていた。こちらの都合で、少年の努力を奪ってしまうのが、本当に心苦しかったのだ。


「本当は、休みたくねぇよ。でも今回が、悪霊の仕業なら、いつもとは違う動きをしている。俺が警戒して過ごす事で、最悪な事態を止められるなら協力する」


あまりにも、何かを悟りとり前向きに答える陽一に違和感を感じたメリー。様子がおかしく感じ、声をかけようとしたが、陽一からそれにさぁ…と口を開き始める。


「この前みたいに、俺のせいで誰かを巻き込むのが嫌なんだ」


陽一は、罰が悪そうな表情をする。この間の古池を巻き込んだ事を強く後悔していた。自分の今後の行動が、どれだけの人を巻き込むのか痛感していた。


陽一が、周りの人を大切に思ってるからこそ、苦渋の決断をしていると感じたメリーは、罪悪感で胸が痛くなる。そんなメリーをよそに、陽一は、明るい表情をしていた。


「ただし、俺から条件がある。1つ目は、土日祝の練習は朝から夕方までだから、それには参加させてほしい。

2つ目は、大会まで1ヶ月しかない。来週中に、この事件が解決しないのなら、ジジィの道場に大会が終わるまで寝泊まりする。だから、霊結石をジジィの家に設置してくれないか?」


「分かった。ボスと掛け合ってみるわ」


「本当に助かる!ありがとうな、メリー」


自分の要求を快く飲み込んでくれた、メリーに感謝をする。そんな陽一を見て、こちらが無理なお願いをしているのにも関わらず、受け入れてくれた少年の優しさを痛感する。


何があっても護り通さなくちゃ、と全力で護ると誓うメリーだった。