『な、何を言ってるの?!私たちは、死んでるのよ!」
「それは、身体だけだろう?」

陽一の言葉に、ドクンと心臓が大きく跳ねる。ただ、メリーは目を見開いたまま陽一を見つめる事しかできなかった。

一方、陽一はメリーが何を考えているのか気にせずに話し続ける。

「幽霊を死んだ人間だと思ってるのは、俺たち残された人間だけだ。本当の意味で死ぬって事は、身体も魂も心も全部死んでいる事だ。
例え、身体が無くても、魂までは死んでない。今も、お前という存在が有り続けている。
それに、今此処に居るって事は生きてる証だろ。誰がなんと言おうと、俺はそう信じてる。幽霊(おまえたち)は、生き続けているって」

夏の夜には珍しく、強い風が陽一とメリーの間を駆け抜けた。そして、曇りもない真っ直ぐな瞳と凜とした声が、メリーの心の奥に封印していた想いを呼び覚ます。

メリーは、その想いを陽一に悟られないように必死に押さえ込んだ。押さえ込むように、ワンピースの裾を手で握りしめていると、ガラっと窓を開ける音が聞こえた。

「いつまでそこに居るんだよ。家に入れよ」

椅子を片手に持った状態で、窓を全開に開けた陽一は、いつまでもベランダに居続けるメリーに声をかける。その声は、今までのやり取りが無かったかの様に、いつもの声色になっていた。

『………うん』

これ以上、陽一に何かを言うまでもなく素直に頷いたメリー。正確には、何も言わせない陽一の真っ直ぐな言葉に負けたのだ。

椅子を元の場所に戻した陽一は、そろそろ寝ようとベットに入る。電気を消そうと、ヒモを掴むと「あっ」と何かを思い出した様に声を漏らす。

「お前って、浮いたまま寝るのか?」
『ううん。幽霊専用の折りたたみ式の寝袋があるから大丈夫よ』

背負っているリュックサックを陽一に見せる。それを見た陽一は、安心した。すると、メリーは『陽一……』とか細い声で呼ぶ。

『隅で良いから、陽一の部屋に居てもいい?』

やはり、メリーは陽一の「好きな所で休んでも良い」という言葉を受け入れる事が出来なかった。いや、何よりも譲る事が出来なかった。

陽一がメリーを生きている人間と同じ扱いをしてくれても、護衛という大切な使命を捨てる訳にはいかない。なら、せめて彼の近くで守りたいとメリーは強く考えた。