「ひいき?」

花井くんも不思議そうにした。

中学校時代 サードで4番打者だった田島くんは

「いーなぁ!!俺もひいきでいいからエースになりてえ!」と。


そんなんじゃないよ。

だから 俺は…

「どういうこと?」

阿部くんもつついてきた。


また涙がこみあげてくるのを感じた。

喉の奥が熱くなって
うまく言葉がでない…

おもわず俺はその場にしゃがみこんだ。

「う うちのじーちゃん の 学校 だ から…」


「おおお!すげえ!」

別に関心することじゃないんだよ。



「経営者の孫だからってエースやらせんの?

ひでえ監督だな。」

阿部くんのひやりとした声。
心に刺さる。

「ちがうんだ…

監督のせいじゃないよ…」

「?」


ピッチャーでいることで
そこに自分の存在を感じていた。

普段は誰も見えないような
透明人間のように扱われた。

ピッチャーでいることが
俺の形を確かにしていたんだ。


「自分からやめたって

部をやめたってよかったのに…


そうしなきゃだめって
わ わかって たのに…

俺…マウンド 3年間…譲らなかった。

俺のせいでみんなは野球を楽しめなかった…

俺のせいで試合負けて…

俺のせいでみんな野球きらいになっちゃって…」

どうしよう俺。

すごい恥ずかしい。


そんな空気を裂くかのように
阿部くんは針のような言葉を俺に浴びせた。


「お前 まじでウザい。」


ドキッ…

ほら、嫌われちゃったでしょ。

俺はどこにいっても仲間はいないんだ。

三星でも西浦(ここ)でもーーー…



針のような言葉のあとに
阿部くんは静かに加えた。

「マウンド譲りたくないなんて、投手にとっちゃ長所だよ。」



…え?阿部  くん?
今 なんて…?

「ま、嫌なやつなのは確かだけど。」

あ、やっぱ。
俺って野球むいてないのかな…



しょんぼりした俺にこのあと投げかけてくれた阿部君の言葉に
俺はどれだけ心が動いたのかは

阿部君だってしらないだろう。