「1番に着いたやつが気づいたらしい」

「1番のやつって…」


振り返ろうとした俺を止めるかのように、クラス委員は言った。


「ペンキが綺麗に乾いてるから、夏休みの間にやられたな」


クラス委員は力なく、はぁっとため息をついた。


「絶対アイツだよ」


どこからともなく声がした。

元々静かだった教室が、ますます静かになる。


「アイツって…」


誰だよ、と言おうとしたときだった。


ガラガラガラ…


教室の前方のドアが開いて、みんなの視線が、自然とそちらを向こうと後ろを振り返る。

振り返ったまま、戻らなかった。

俺とクラス委員が立ち上がったのはほぼ同時。


教室の前のドアに立っていたのは他でもなく、保坂さんだった。


静けさの中に、嫌な緊張感が走る。

保坂さんは視線を下げたまま何も言わず、自分の席に荷物をおいて座った。


ここから見える、みんなの背中と
ここから見えない、みんなの視線。


《アイツ》とは、保坂さんのことだった。


「ありえねー」

「よく来れるよね」


どこからともなく声があがる。