小石を蹴ってしまった。

すると人影は俺に気付き、一目散に逃げていった。


「あ…ちょっと!」


逃げられちゃ、追っかけたくなるのが人間の習性だが、男が立っていたところまで来て、男が逃げた方向を見る。

すでに人影はない。

そして店内の方を向いてみる。
見えたのは近くのテーブルと、奥に先ほどまで俺がいたところに、店長と女の子が立っているのが見えた。

ここから何を見ていたんだろう。


「西原くん?」


突然、背後から名前を呼ばれて思いっきり振り返る。


「と…遠山さん」

「お疲れ様です。…どうしたの?」


店の外では、彼女はもう既に俺にタメ口だった。


「いや、なんか怪しい男がここに立っててね…あ、すれ違わなかった?」

「ううん、でも…」


遠山さんは眉を寄せて、少し首を傾げた。


「前にも店に来てたかも。確かこの辺に立ってて、その時は目が合ったらいなくなったんだけど」


なんだか、ゾクッとした。


「前っていつ頃?」

「うーん、1週間も経ってないと思うけど」


その日はそのままバイトを続けたが、俺はどうにも胸騒ぎを感じてやまないままだった。