『あー…いい、いい』

先生がにこにこしながら、ゆっくりと一番後ろの彼女の席へ向かい

彼女を止める数人の手を離した。

そして腕時計を見て、彼女に向き直り

『よく頑張った。また戻っておいで』

と言い、道をあけた。


彼女は小さくうなずいて、ぱたぱたと小走りで、俺の真後ろのドアから教室を出て行った。

首にかからないくらいの、短めのポニーテールがぴょんぴょんと揺れる。

彼女はうつむいて、胸元をぎゅっと握っていた。


『申し訳ない。みんなに話しておかないとね。』


先生は相変わらずにこにこしていた。


『みんなには苦手なものってあるかい?』


ただでさえ初日で、緊張感が漂う教室。
先生は教卓から俺たちを見渡して、満足そうに、うんうんと頷いた。


『彼女はね、少しだけ苦手なものが多いんだ。

でもね彼女は彼女なりに、君たちに迷惑をかけないようにしようとしている。それだけはわかって欲しい。』


先生からそれ以上の言葉はなかった。

何も解決してないようなわだかまりが残ったが、誰も言葉に出来なかった。


その日、彼女は戻って来なかった。