「もう、帰るの?」

「帰るよ、用事ないし。そっちは?5時まで残るの?」

「うん」


保坂さんはまだ物言いたげだ。
退屈な毎日の中、知り合いに会ったら話をしたくなる気持ちは、わからなくもない。


「きょうしつ、いかない?」

「教室?なんで?」

「パネルみに」


思わずぼやっとしていると、彼女は俺の返事を聞くこともなく
「いこ!」と背を向けて行ってしまった。

その後を追う。


教室は無人だった。
今日の当番は帰ったらしい。


「結構進んでるな」


保坂さんは何も言わずにパネルの前にしゃがんだ。


また遠くで太鼓の音がする。

窓の外を見ると、ここからはあんまりよく見えないが、練習をしてるのはうちのチームではなさそうだ。


「にしはらくん、次いつ?」

「え?しばらく後だったと思うけど」


何となく流れで


「保坂さんは?」


と聞いてみた。

返事がないので振り返ってみると、彼女はまだ食い入るようにパネルを見ていた。


「保坂さん、俺もうすぐバイトなんだわ」

「うん」


俺の問いかけに素直に応じて、彼女は立ち上がった。