そう思ったとき、いつかの賢の姿が頭をよぎり


「…いや多分、なくはないよ多分…」


と訂正した。

そう、あのときは確かになんだか無性に悔しかった。

それはやっぱり俺自身も、そういう欲求を欲してる証拠…だろう。

すると橘さんは「よかったぁ!」と声をあげた。


「な…なにが?」

「いやっあのっ!もしかして男の子が好きだったりしたらどうしようかと…」

「…」

「すっすいません…!でも今時なくもないでしょ?私、西原くんのことよく知らないし…」

「にしても極端な…」

「じっ事情知らないでズケズケ言っちゃったりして傷つけたりしたら嫌だし…ここはハッキリさせておきましょう」

「え?」

「男色じゃないですよね?」


男色って…。
俺は吹き出しそうになった。


「大丈夫だと思います。今のところは」

「…予定とかあるんですか?」

「いや、ない」


一瞬沈黙して――…
二人でめちゃくちゃ笑った。


「なんの話してんだろ俺たち」

「すいません…」


まぶたの涙を拭うと、「遅くなってごめんなさい」ともう1人がやって来た。


それから昼過ぎに作業を切り上げて、解散した。

意外と疲れて、数学の余裕はなかった。