賢がちらっと振り返る。
焦って俺は「わりぃ」と手を挙げた。
賢は軽く頷いて前に向き直った。
なにやってんだ俺。
思わず賢のイスを蹴っていた。
イライラしてるんだ。
暑いせいだ。腹が減ったせいだ。
先生の話が長いせいだ。
なんて。
自分の雑念に嫌気が差す。
いや、やっぱり先生の話は長い。
「あとなんか…あったかな」
俺のイライラをよそに、先生は至ってマイペースだ。
わかってる。
夏休み前、たくさん連絡事項がある。
ちょっと収拾がつかなくなることも。
あぁ、なんで教室のクーラーって、こう…大きさの割りに働きが鈍いんだろう。
「まぁいいか、今のお前たちには何を言っても耳に入らんな」
先生はそう言って、教室を見渡した。
俺と同じように暑さと空腹が顔に出てる人間が、教室中にいるようだ。
「じゃあこれくらいにしよう、クラス委員」
「きりーつ」
ガタガタガタ……
教室中からキレのないだらだらした音が響く。
やっと、夏休みだ。
