ぱらぱらとページをめくってみる。


「詩集?」


俺が本から保坂さんに視線を向けると、彼女は再びにっこり笑って頷いた。


「よく借りるの?この本」


尋ねると、保坂さんは首を横に振り


「もってる」


と答えた。

そのとき


ブーブーブーブー…


低く響くバイブ音に、保坂さんはあたふたとスカートのポケットに手を入れる。


取り出した携帯のディスプレイを確認し、俺に顔を向けた。


「ママ?」


少し皮肉を込めて尋ねてみる。

しかしそんな思惑に気づきもしない保坂さんは、俺に嬉しそうな笑顔を見せた。


「またね」


保坂さんはくるりと背を向けて、行ってしまった。


取り残された俺は、

保坂さんの後を追った。


図書館を出て、廊下を突き当たり階段を降りて

見えない姿を予想して

「保坂さん!」と呼んでみる。

よく響く。

さらに階段を降りて行くと、きょとんとした保坂さんが下からこちらを伺っていた。


「いま…」

「うん、呼んだ」