もう一度呼ぼうとして、止めた。
無視されるのは、意外と寂しかった。
授業を途中参加すべく、俺は彼女と反対方向に回れ右し
校舎に向かった。
ずっと彼女の後ろ姿が頭を巡っていた。
こっそりと教室の後ろのドアから入ると、先生と目が合った。
軽く会釈をする。
2時間目は化学だった。
俺の前の席…賢の席は空いていた。
さらにその前の席に座っていた翔太は、早くもがっつり寝る態勢。
しかし俺が入って来たことに気がついて、体を挙げて俺に目配せした。
そしてすぐに寝る態勢に入った。
『翔太、翔太』
翔太はぴくっと体を起こして、軽く回りを見回した。
『翔太』
もう一度呼ぶと、やっと俺と気がつき、振り返って
『なに?』と言わんばかりの顔をした。
『賢は?』
『じゃーねって出てった』
『いつ頃から?』
『さっきの休憩のとき』
『そっか』
俺がこくこくと数回頷くと、翔太も頷いて前に向き直った。
黒板はすぐに追い付ける程度の量だけ埋まっていた。
賢は化学が得意だ。
俺は教科書に線を引き、ふと反対側の窓の外を見た。
