もう一度、角から顔を出して様子をうかがうと
2人の姿はなかった。
あいつ…ドラマの見すぎもいいとこだ。
俺は保坂さんに向き直る。
困った顔も引き止めたのも
話の途中だったから
離れていくのが寂しいから
そんな理由も考えられた。
でも多分ちがう。
「いつから?」
「な…なに、が?」
「賢は1年の終わり頃から、たまに授業を抜け出すようになった…その頃から?」
彼女は知ってた。
賢が女の子とばっくれてることを。
そしてその女の子は彼氏がいて
その彼氏はバスケ部のキャプテンで
それは賢の先輩にあたる人で
これは誰かに知られたら非常にまずいということを。
保坂さんは何も言わずに立ち上がり
「なにも、しらな~い」
と残して元来た道を戻った。
俺も立ち上がった。
「保坂さん」
その背中に投げ掛けると、一瞬立ち止まり、何もなかったようにまた歩きだした。
彼女は俺に何一つ答えをくれないどころか
初めて無視した。
