それから少し経って、ついにその日が来た。
学校の授業中、教室に教頭先生が現れた。
心臓がびくんと跳ねた。
『西原くんは…』
喉がカラカラになった。
けど、体が反応して立ち上がっていた。
教頭先生は俺を見て言った。
『お母さんがいらしてます。
すぐに帰る準備をして下さい』
門の前に、車があった。
黙って助手席に座る。
お袋の顔は見ない。声もかけない。
今車の中に張りつめてるこの緊張を、乱してはいけない。
『にぃちゃん…』
後ろから陽介が声をかけてきた。
ちらっと振り返る。
陽介の手を握ってやりたい。
チャイルドシートに固定されている陽介に手を伸ばしてみた。
するとすかさず陽介も手を伸ばして来て、繋ぐことが出来た。
少し微笑み、頷くと
どちらからともなく、手を離した。
無言のまま静かに病院に着き、お袋は里香を、俺は陽介を抱えて
走ってはいけない病院で、人目も気にせず走った。
